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蓮花考

流水

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中川 光弘 香川県に生まれる。 東京大学農学部農業生物学科、農業経済学科卒業。博士(農学)。 農林水産省アメリカ・オセアニア研究室長を経て茨城大学農学部教授。 現在は茨城大学名誉教授、東京日野国際学院副校長。
蓮花考

6月に入って梅雨が始まると、土浦市の霞ヶ浦総合公園では色とりどりの蓮が咲き始める。この時期は早朝からカメラを持ってこの蓮園を散策するのを楽しみにしている。蓮園では、日本の蓮だけでなく、中国やベトナム、アメリカから移植された様々な品種の紅蓮や白蓮が咲き誇っている。

日の出とともに蕾が開き始め、ゆっくりと時間をかけて開花し、夜にはまた蕾を閉じる。開花した蓮には何処からか蜂たちがやって来て、蜜を集めるとともに蓮花の受粉を手伝っている。開花したばかりの蓮が、蜂たちにとっては特に人気である。こうして生命はつながっていく。

本草学では、蓮の各部位は薬である。蓮の種子は蓮肉(レンニク)と呼ばれ鎮静、滋養強壮、止瀉(下痢止め)、健胃作用がある。種子の胚芽だけを集めた蓮芯茶には、解熱と精神安定作用がある。根の蓮根は、料理に使われているが、喉の痛みや咳を止める作用もある。蓮の茎には、気滞の改善と解毒作用がある。土浦市は日本一の蓮根の生産地であるが、蓮の根だけの利用に終わっており、生薬としての利用は普及していない。ベトナム料理で定番となっているゴイ・ゴー・センと呼ばれる蓮の茎のサラダなどは、解熱とダイエット作用を持つ健康料理であり、日本での普及が期待される。

一般に生薬として利用される植物は、厳しい環境に耐える強い生命力を持っている。2000年以前の泥炭層から採集された蓮の種子が、大賀一郎博士によって発芽再生され、大賀蓮として世界に普及したことは有名である。この大賀蓮の事例などは、蓮が極めて生命力の強い植物であることを示している。

アジアでは蓮花は人間の霊性開花のシンボルとして広く使用されてきた。インド医学やチベット医学では、人体にはエネルギーセンターであるチャクラが複数存在し、このチャクラが活性化されることにより身体、心、魂の真の健康が実現すると考えられてきた。第1チャクラのムダラーナに眠っているクンダリーニ(生命エネルギー)が覚醒すると、これが上位のチャクラを次々と活性化させ、最後に第7チャクラのサハスラーラを活性化させせる。この時修行者は頭頂部で何千枚もの蓮の花弁が開くような感覚を体験すると言われている。

仏教では蓮華の徳が説かれてきた。この中で「汚泥不染の徳」が有名である。蓮は湖沼の汚泥に根を張って成長するが、その泥に染まることなく、清浄な花を咲かせる。我々も煩悩、妄想の中に生きているが、煩悩が即涅槃であると気づけば、心は清浄に保たれると説かれている。蓮の葉が雨露を集めて水玉とし、風に吹かれてそれをさらりと流し去る姿は、我執を離れて無心に生きる境地を象徴しているように見える。

蓮花を愛でる文化は、アジア諸国に共通している。
このような文化を大切にして、自然と調和した人間文化生活を楽しんでいきたい。

2024/6/24

Tags:日本文化のルーツ

Comment

  • So Ishikawa:
    2024年6月24日

    流水さんとAkiraさんが、「縁友往来」に寄稿してくださったメッセージに添えられた写真が、お二人とも「蓮の花」だったのは、単なる偶然でしょうか。

    同じ願いを抱く縁友の意識が心の深層でつながり、シンクロしているのではないか、私にはそう思えてなりません。

    ひとつひとつの蓮の花は、地下茎でしっかりと繋がっています。「この世」という泥沼に生きる縁友を繋ぐネットワーク、そこからどんな生命の花が開いてゆくのか、今後が本当に楽しみです。

  • 石部 顯:
    2024年6月25日

    蓮に、それだけの生命力があるとは、知りませんでした。確かに、2000年の時を経て開花した大賀蓮には、ずっと疑問があり、どうしてそのようなことが可能だったのか、不思議でなりませんでした。その答えを、頂いた思いで、嬉しいです。

    また生薬としても全部生かされるのですね。環境の厳しいところで育った植物が、生薬になるというのも面白いですね。人間も同じ、やはり苦労しなければ、味のある陰翳の深い人間には、育たないのでしょうね笑。妙に納得しました。厳しい環境だからこそ引き出される生命の可能性がある━生命に共通した真理なのでしょう。

    蓮の葉に置かれた水玉の美しさ━。「無心」の象徴とは、これほど見事な喩えもめずらしいですね。無心ゆえに、あるがままにすべての真実を映し出す、水玉のように。
    日本という国を、法華経━蓮の花のように美しい真理を基に創造しようとした聖徳太子を初めとする多くの先人たちが偲ばれ、美しい蓮の花の波動を受け、自然に心が浄化され、元気を頂きました。有り難うございます。

    泥沼に咲く蓮の花、━娑婆の煩悩にまみれた人間に、その煩悩が深いからこそ、美しい生命の花が咲くと謳った法華経の煩悩即菩提━。禅僧、良寛の詩より返歌を捧げます。

    「皮膚病の犬は、天に生まれようとせず、むしろ雲中の白鶴を笑う」(煩悩にまみれた者が、徹底してこの苦難に満ちた娑婆に徹する時、そこに解脱の境涯、「永遠に平安」の世界が開けるだろう━竹村牧男氏訳)。
    業と運命をどこまでも抱きしめ愛してゆきたいものです。

    Akira

  • 石部 顯:
    2024年6月26日

    Ishikawaさん、ありがとうございます。

    ━ひとつひとつの蓮の花は、地下茎でしっかりと繋がっています。「この世」という泥沼に生きる縁友を繋ぐネットワークから、どんな生命の花が開いてゆくのか、今後が本当に楽しみです。

    本当にそうですね。蓮の花は、別々に見えて、地下茎でつながっている。私たちの意識もそうですね。
    小説『ダビンチ・コード(”The Da Vinci Code” -Dan Brown)』に、次のような言葉がありました。
    ”Those who seek the truth are more than friends. They are brothers.” 私たちには、
    ”They are soul mates.”の方が、ぴったりきますね笑。

  • Brian Amstutz:
    2024年6月29日

    Dr. Nakagawa,

    Thanks for your excellent introduction to Lotus Root Farm in Kasumigaura Park (Ibaraki), where lotus of multiple species (Japan, China, Vietnam, USA . . . ) bloom around Lake Kasumigaura in the June Rainy Season. The flowers, opening wide at dawn and closing again at night, are particularly popular with honeybees—one of Nature’s most important group of pollinators, now in decline around the world due to colony collapse disorder.
    Every part of the lotus plant has medicinal powers. Lotus seeds have antidiarrheal powers, and tea made with the seed germ reduces fever. Lotus roots, while crunchy and delicious, are also good at healing sore throats and coughs.
    The lotus, we learn, is associated with the body’s 7 chakras (energy centers). Truly, a symbol of spiritual and physical harmony.

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