縁友往来Message from Soulmates
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食のリテラシー

海外との比較研究をしているとよく感じることだが、日本は世界で冠たる統計国家である。国際的に見てほとんどの分野で、日本の統計は充実している。これは明治政府以来、正確な統計に基づいて国家を運営するという伝統が継承されてきた成果であろう。
食や健康の分野でも日本の統計は充実している。
「国民健康栄養調査」という統計があるが、この統計のように毎年全国統一の栄養調査を実施している国は日本だけである。アメリカには栄養調査はあるが特定地域や集団のサンプル調査であり、全国統一の栄養調査は実施されていない。中国では10年に1度全国統一の栄養調査が実施されているが、今回の新型コロナの影響でその公表が遅れている。
日本の「国民健康栄養調査」と「人口動態統計」を使って食生活と生活習慣病の関係を分析したことがある。
「国民健康栄養調査」では毎年都道府県別にどのような食品が摂取されているかの調査結果が公表されている。「人口動態統計」では毎年都道府県別の病因別死亡率が公表されている。この2つのデータを使って食品消費量と死因別死亡率の相関性を分析した。
例えば、癌の死亡率について、飲酒量、喫煙率、塩分摂取量、野菜摂取量、所得を説明変数とした重回帰分析を行ったところ、喫煙率、塩分摂取量、野菜摂取量に統計学的に有意な相関性が認められた。
喫煙率を10%減らし、塩分摂取量を10%減らし、野菜摂取量を10%増やせば、癌死亡率が12%減ることが示唆された。癌になりたくなければ、まずタバコをやめて、食塩摂取量を減らし、野菜をもっと多く食べることである。日本人の食塩摂取量は1日10gだが6gまで減らすことが推奨されている。野菜摂取量は280gだが350gまで増やすことが推奨されている。
具体的な食品の摂取量と癌死亡率との相関性の分析も行ったが、いくつかの傾向が認められた。
癌死亡率を増やす食品群として、小麦製品、魚介加工品、肉加工品などが認められた。逆に癌死亡率を減らす食品群として、植物性食品、茶、コーヒー、大豆加工品などが認められた。
癌死亡率は戦後一貫して増加を続けており、最近では日本人の死因の約3割を占めている。男性の場合、生涯で二人に一人が癌に罹患し、三人に一人が癌で死亡すると言われている。このような国民病になった癌であるが、食のリテラシー(活用力)を高め、食生活を改善することによって、かなり抑制できるのではないかとの感触を持っている。
機能性食品因子の知識の活用、本草学の活用、腸内細菌の免疫力の活用などを併用した食のリテラシーの向上が、健康寿命の延長に有効なのではないかと考えている。
2025/2/25
Comment
中川さん
菜の花、拝見しました。
つい先日家内とのお散歩のために同じ大津市内にある菓子屋さんの工房のある山にでかけました。あいにく梅の開花は例年より10日以上遅れていましたが、菜の花は満開でした。
満開の菜の花畑でミツバチが活発に花粉や花蜜を集めているのを観て春を実感しました。
40年ほど前に農薬会社で毒性試験を生業にしていた縁で、先月東海地域の生活協同組合の勉強会でミツバチと農薬(ネオニコチノイド)について話すことがありました。なかなか微妙な内容も含まれているので、パワーポイント原稿を作成する際に、聴衆のみなさんの農薬についてのリテラシーがどの程度なのか、あれこれ悩みました。
眞鍋昇(東大名誉教授、獣医学)
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眞鍋さん
貴重なコメント有難うございます。
毎年庭でサヤインゲンを作っているのですが、最近結実率が低下していて、ミツバチの数が減っているためではないかと考えたりしています。土浦市の蓮園では多くのミツバチが飛んでいるのですが、住宅地では減っているのかもしれません。
1962年にレイチェル・カーソンの「沈黙の春」が出版され、1975年には有吉佐和子の「複合汚染」が出版され、農薬への関心が高まって、毒性の強い有機リン系農薬が規制されたので日本では農薬問題はおさまったと思っていました。しかし都立大学の黒田洋一郎先生がネオニコチノイド系農薬と子供たちの精神疾患との関係の可能性を指摘され、農薬問題がまだ解決していないことを知りました。黒田先生の指摘では、OECD諸国の中で自閉症・発達障害の有病率が高いのは韓国、日本、イギリス、アメリカの順番で、単位面積当たりの農薬使用量が多いのも韓国、日本、イギリス、アメリカの順番だそうです。神経系を阻害するネオニコチノイド系農薬の影響ではないかと指摘されています。
生活習慣病の統計を見ていると、癌死亡率は戦後一貫して増え続けていて、人口10万人当たりの死亡数は1960年の100人から最近の330人まで増えています。高齢化が進めば細胞の老化も進むので癌の発症率が高まることは当然なのですが、人口構成が若かった1960年代から80年代でも癌死亡率は増加したこと、同じ生活習慣病の脳血管疾患の死亡率は減少したことなどを考えると、やはり日本の癌死亡率の増加は異常だと思います。
癌は毒素に暴露されることが長年続くことにより遺伝子が傷つき、免疫機能の低下により遺伝子修復機能が低下したことによって起こると思われます。人間が暴露する毒素の代表はタバコと食品添加物、残留農薬でしょう。食や農薬のリテラシーが大切だと思います。
中川
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中川さん
勤務先から帰宅して、時計がわりにテレビをつけたら、
たまたまですが、
野菜類が高値だから、ハンバーグの外食店が輸入野菜に切り替えているとのニュース。
わたしは、この飲食チェーンでは食べないから関係ないだろうと思いますが、子どもたちが心配です。
余談
昔、アメリカ合衆国が北ベトナムの密林に枯葉剤を空中散布(空爆ですね)し、その後ベトちゃん・ドクちゃんで有名になった奇形児が沢山産まれました(今も影響は残っているとする研究者もいます)。
多くの日本人は、枯葉剤に催奇形性(胎児に奇形を引き起こす毒性)があると思い違いしていますが、
散布された枯葉剤に極微量混じっていた副産物(有機化合物は、合成のプロセスで、目的としている化合物に化学構造が非常によく似たさまざまな化合物・副産物が作られてしまいます)が催奇形性をもっていたことが分かっています。
少なくとも、日本で合成している農薬の場合、目的とした化合物以外の副産物を可能な限り減らし(精製)、かつ副産物の毒性も評価しています。しかし、近隣諸国の場合はどのような副産物ができていて(有機化合物は、合成ルートが違うと生成する副産物も異なります)、毒性がどのようなものか科学的に不明です。
眞鍋 昇 拝
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眞鍋さん
中国からの輸入野菜の場合は、最近では生産地が指定され、管理された栽培法で生育した野菜だけが日本に輸出されていると聞いています。水際でも、サンプリング調査ですが、品質分析が行われています。しかし、今回のように国内キャベツの高騰対策としての緊急輸入の場合は、指定産地以外の野菜も輸入されているでしょう。
枯葉剤の催奇形性は、枯葉剤に極微量混ざっていた副産物によるものだったことはまったく知りませんでした。「有機化合物は、合成のプロセスで、目的としている化合物に化学構造が非常によく似たさまざまな化合物・副産物が作られ」、その影響評価も必要であることは、これまで考えてもみませんでした。農薬開発は大変なのですね。国際化の中での食の安全性を確保する社会システムの見直しが必要なのかもしれません。
中川
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中川さん
そうですね。流行りのことばでいうパラダイムシフトが必要な時期かなぁと思います。
眞鍋拝
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