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芍薬花考

流水

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中川 光弘 香川県に生まれる。 東京大学農学部農業生物学科、農業経済学科卒業。博士(農学)。 農林水産省アメリカ・オセアニア研究室長を経て茨城大学農学部教授。 現在は茨城大学名誉教授、東京日野国際学院副校長。
芍薬花考

茨城では、桜花の時節が過ぎると、牡丹花と芍薬花の時節を迎える。
土浦市には「つくば牡丹園」があり、4月に入ると牡丹が次々と開花し、牡丹の花が終わる頃には芍薬が咲き始める。「つくば牡丹園」には800品種を超える牡丹と芍薬が植えられており、毎年外国人も含む多くの来園者を集めている。

牡丹と芍薬とはよく似た花を咲かせるが、よく見ると牡丹は多年生木本で冬でも地上部は枯れず、春になるとその茎先に大輪の花を咲かせる。芍薬は多年生草本で春になると地下から茎が伸び出て、その先に花を咲かせる。

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」とは中国の諺で、女性の美しさを譬えた言葉である。美人が座っている姿は大輪の牡丹に譬えられる。茎がしなやかに伸びた先に花をつける芍薬は立った美人の姿を連想させる。草丈が高く風に揺れる百合は、美人の歩く姿を連想させる。

芍薬(シャクヤク)は、中国、モンゴル、朝鮮半島、シベリア南部、日本など東アジアに分布している多年生宿根草で、古くから鑑賞用・薬用植物として栽培されてきた。白、桃、赤、紫などの大型で華麗な花を咲かせるのが特徴であり、園芸品種では八重咲き化が進んできた。媒介昆虫を誘引する芳香を放つ品種が多い。

我家の庭にも赤紫色の芍薬が生えている。毎年5月の連休頃になると大輪の花を咲かせる。それを切って室内に活けておくと、一週間ぐらいは次々と蕾が開花して奥ゆかしい芳香で部屋中が満たされる。宿根草なので、ほとんど世話をしなくとも毎年春には萌芽して茎を伸ばし、大輪の花を楽しませてくれる。病害虫や乾燥にも強く、日陰でも華麗な花を咲かせてくれる。

芍薬は、鑑賞用だけでなく薬用としても重要な植物である。根茎が生薬として活用されてきた。足のふくろはぎのこむら返りに即効性がある「芍薬甘草湯」や、女性の冷え性や貧血、むくみ、更年期障害に効果を発揮する「当帰芍薬散」には芍薬が配合されている。

芍薬には「ペオニフロリン」という薬効成分が含まれており、これが鎮痙作用、抗炎症作用、鎮痛作用を持つている。生薬としての芍薬の品質評価にも、この「ペオニフロリン」の含有率が使われている。日本薬局方では「ペオニフロリン」含有率2%以上の芍薬を生薬として認めている。全ての芍薬の根茎が生薬として流通しているわけではない。

日本薬局方の基準はかなり厳しく、生薬生産者にとっては必ず超えなければならない条件である。以前、中村耕二郎先生と漢方薬で最も使われる甘草の栽培実験を行ったことがある。
甘草についての日本薬局方の品質基準は「グリチルリチン酸」含有率2.5%以上なのだが、この条件を超えることがなかなか難しかった。
特殊な栽培法を使うことにより、日本の風土でも甘草の根を1年間で2m以上伸長させることには成功したのだが、「グリチルリチン酸」含有率2.5%以上の条件を超えることが出来なかった。

生薬としての芍薬生産者にとっては、日本薬局方の「ペオニフロリン」含有率2%基準を超えることが第一の課題なのだが、「つくば牡丹園」園長の関浩一博士は平均含有率で7.8%の栽培法を確立されている。関さんの芍薬は完全な有機栽培下で生産されており、化学肥料や農薬は一切使われていない。関さんが独自に開発した有機微生物肥料を施肥し、雑草を上手く使った生草栽培が行われている。

「どうして関さんの芍薬の含有率は7.8%と高いのですか」と尋ねたところ、「生草栽培により雑草と競争させおり、有機微生物肥料の施肥により雑草が肥料を吸収しても芍薬にも栄養素が十分に供給されるようにしているから」との説明だった。芍薬は本来アロレパシー(他感作用)の機能を持っており、雑草との競争にさらされると、競争に勝とうとして体内にアルカロイドの「ペオニフロリン」を蓄積する性質があるのだそうだ。

多くの薬草は厳しい環境下に生育している。厳しい環境を生き残るためにアルカロイドを蓄積する。このアルカロイドが薬として我々の身体を病気から守ってくれるのである。この地上の生命は、厳しい環境にさらされることによって、逞しく育っていくもののようである。

2026/6/25

Tags:メッセージ

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