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カメラとの出会い

カメラとの出会い

今年に入って、NATURE通信の動画の画質がこれまでと少し変わったことに気づかれた方もいらっしゃると思います。実はこの2月から、カメラを動画撮影に特化したスチルカメラに変えました。

40年前、NATUREの収録を始めた時の最初のカメラは、テレビ放送用のビデオカメラでした。

16ミリフィルムでニュースを撮影していた時代に、ENG( Electronic News Gathering ) をコンセプトに開発されたこのVTR一体型のビデオカメラは、世界中の放送局が競って採用するほど画期的な製品でした。

このカメラは高級車が買えるほど高価で、ロケに必要な装備の重量は、三脚やバッテリー、モニターなどを含めると軽く20Kgを超えていました。

NATUREの収録は、天候の変化を読んで、最適な撮影ポイントを探さねばなりません。重い機材と技術クルーを抱えて、臨機応変に移動する必要があるために、車による移動が、NATURE収録のスタンダードスタイルになりました。

この40年の間に、テレビはアナログ放送からハイビジョン、そして4Kへと加速度的に高精細化の道を辿りました。それに伴い画像を映し出すカメラのイメージセンサーも、撮像管からCCD、そして積層型CMOSへと変わり、動画を記録するメディアもテープからメモリーカードへと変わりました。

しかし、これだけ技術革新が進んでも、テレビや映画の世界では、大型のビデオカメラを使った収録スタイルが、今でもまだ続いています。それは何故なのでしょう。

SNSの世界では、動画の撮影にスマホやコンパクトなデジカメが使われるようになりましたが、このようなカメラで収録された動画は、データを軽くするために、一見しただけでは分からないように、「色」や「動き」が間引かれています。

後から画像を補正しようとしても、この間引かれたデータからは、繊細な色彩や滑らかな動きを引き出すことが難しいのです。

このような理由から、高い品質を追求するプロの動画の世界では、これまでずっと、高性能な大型のカメラを使うしか選択肢がなかったのです。

自然が造り出す「神秘的な変化」を収録できるかどうかは、ひとえに気象条件にかかっています。

NATURE通信を始める時に、スタッフの都合を気にせずに「自然」に呼ばれたらいつでも撮りに行ける「一人収録」を可能にするために、機材を思い切って軽くすることにしました。

三脚を軽いものに変え、思い切ってモニターを無くして、装備の重さを10Kg程度まで落としました。そのおかげで、「魂を揺り起こすような風景」と出会えるチャンスは、確実に増えました。

しかし、70歳を過ぎた老人が一人で機材を担いで動き回るには、これでもまだ負担が大きく、カメラの小さなビューファインダーだけで画像を見ているために、収録に失敗することも多くなってしまいました。

この状況に風穴を開けてくれたのは、デジタル化したスチルカメラの急速な進化でした。

35㎜のフルサイズ画像センサーで撮影したデジタル写真の画質は、4Kテレビの画質を遥かに超えています。この写真を1秒間に60枚連写し続ければ、4Kを超える超高精細な動画が収録できるのですが、画像データの処理能力が追いつかないため、これまで実用化されることはありませんでした。

ところが昨年、ついにフルサイズの画像センサーで、1秒間に120枚の連写を可能にしたカメラが登場したのです。動画に特化したこの新世代のカメラは、40年間続いてきたNATUREの収録スタイルを一変させるほど画期的なものでした。

カメラ本体の重さは何と1Kg以下。モニターを取り付け、三脚と交換レンズを持っても、重さは 5Kg に満たないのです。この重さなら、車から離れて、一人で長い距離を自由に歩き回れます。

これなら、これまでのNATUREでは難しかった「歩かなければ撮れない風景」と巡り会うことができそうです。

光を取り込む画像センサーは、大きければ大きいほど、鮮明な画像を写し出すことができます。35㎜のフルサイズ画像センサーの面積は、これまで使っていたビデオカメラの7倍以上、スマホのカメラの30倍以上もあります.

この明るさがあれば、暗いところをノイズの少ない美しい画像で写し出すことができます。これからは、夜明け前の風景や、月の光が照らし出す静謐な世界など、これまでのNATUREにはなかったシーンを、お届けすることができそうです。

ニュース取材にルーツを持つビデオカメラは、被写体を素早く追いかけるために、一本の高性能なズームレンズだけで、広角から望遠までをカバーできるように作られています。

これに対して、写真にルーツに持つ新世代の動画カメラは、撮影しようとするシーンに合わせてレンズを交換し、じっくりと「画づくり」をすることができます。

写真と同じように、歪みの少ない広角レンズで遠近感を強調したり、明るい望遠レンズで被写界深度を浅くして背景をぼかしたりすることができるのです。

レンズ表現による「画づくり」によって、NATUREの世界を、よりアート寄りの方向に近づけることもできるようになりました。

新世代の動画カメラは「体力の限界」を感じ始めていた私に、新たな希望を与えてくれました。やりたいことが次々に出てきて、ロケに出る度に年甲斐もなくワクワクしています。

しかし、私の心の中には、長年ずっと連れ添ってきた古女房を捨てて、異国育ちのクールな若い女性に走ってしまったかような、何とも言えない複雑な想いもあります。

もしも、40年前にこのカメラがあったら、これほど収録に苦労をする必要はなかったと思います。しかし、画質が劣っていて、一人では持ち運べないほど扱いにくいカメラを使っていたからこそ、魂を揺り起こすようなシーンが撮れた時の感動は、言葉にできないほど大きかったような気がします。

私にとってNATUREを収録することは、人間の技をはるかに超えた神秘的な存在との出会いを求める旅でもありました。

「重い荷物」を背負ってNATUREを収録してきたこの40年の日々は、どんなに大変でも決して諦めない「心の筋肉」を鍛えてくれたと思います。

肉体の筋肉は朽ち果てても、古女房が鍛えてくれた「心の筋肉」と、かけがえのない思い出は、一緒にあの世に持って帰れるような気がします。

年老いてもNATUREを撮り続けられる新しいカメラと今このタイミングで出会えたことは、本当に幸運でした。この出会いに感謝しつつ、もうしばらくの間、この新しいパートナーと力を合わせて、ミッションを遂行してゆきたいたいと思います。

NATURE通信 March 2023
https://nature-japan.com/cat_nature/mar2023/

新しいカメラの情報です
https://www.sony.jp/pro-cam/products/ILME-FX3/spec.html

2023/3/24

Tags:制作ノート

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