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愚老庵ノートSo Ishikawa

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NATURE収録の長い一日

NATURE収録の長い一日

「NATUREを収録しているところを見たいので、一度ロケに連れて行って」 コロナが流行る少し前のことですが、NATURE JAPAN を支援してくださっている映像業界の先輩から、こんなリクエストを受けました。

コロナ禍でずっと先延ばしになっていましたが、そろそろ解禁してもいい時期です。しかし、この3年余りの間に「深夜出発の日帰り弾丸ロケ」という収録スタイルがすっかり定着してしまい、80歳近い先輩をこのロケにお誘いするのはいかがなものかと逡巡しています。

これから同行を希望される方もいらっしゃると思うので、ロケの現場で実際にどんなことが行われているのか、ひとまず、直近のNATUREのロケの様子をレポートさせていただこうと思います。

NATUREの収録は、事前のリサーチと収録プランの作成から始まります。今回は10月に入るとすぐに、この作業に取りかかりました。

今年は紅葉の見頃が1〜2週間ほど遅れていて、落葉の頃を狙うNATUREの収録には早過ぎます。秋の台風の前後にもドラマチックなシーンが狙えるのですが、今年は、本土に近づいてくる台風が少なくて、こちらも期待できません。

このような状況で、どんな「NATURE」を届けられるのか、いろいろと想いを巡らせているうちに、雲が山々を越えて滝のように流れ落ちる「滝雲」のイメージが浮かんできました。

滝雲といえば、奥只見湖へ向かう途中の「枝折峠」が、絶景スポットとして撮影マニアにはよく知られています。

昨年の秋もこの場所を訪れたのですが、この頃はまだ、画像センサーが小さくて暗いところが苦手な一世代前のビデオカメラで収録を行なっていました。

この時とても悔しい思いをしました。写真を撮る人たちが、大きな画像センサーを搭載したスチルカメラで、夜明け前の幽玄な滝雲に向かって、次々とシャッターを切っているのに、私のビデオカメラには、暗くてその風景が写らないのです。

この時の悔しさから、フルサイズの画像センサーを搭載した新しいカメラで、夜明け前の滝雲にリベンジしたくなり、今回もう一度、枝折峠へ行こうと思い立ちました。

滝雲を収録した後はどうするのか。その日の収録プランを考えている時に、何故か日本海に沈む秋の夕日を撮りたいという想いが湧いてきました。

演歌に出てくるような荒々しい冬の日本海には何度も行っているのですが、秋の日本海は最近ずっと収録していません。

枝折峠から新潟の海岸までは1〜2時間で行ける距離です。夕日を収録するまでには、たっぷり時間があります。途中にあるコスモス畑に立ち寄って、風に揺れるコスモスを収録し、それから夕陽を撮りに日本海へ向かおうと思いました。

NATUREの収録でロケの日程を組む時に、真っ先に考えるのが天候です。滝雲が発生しやすいのは、前日か前々日に雨が降り、湿度が高く晴れて寒暖差が大きい日です。

人出の多い土日と休日を避けて、天気予報でこの条件を満たす日を探すと、候補日は10月12日か13日でした。秋の天気は変わりやすいので、直前まで様子を見て、13日の深夜に出発することにしました。

12日の夕方から機材の準備と点検、20時に就寝して13日の午前0時30分に起床。午前1時に吉祥寺を出発し、関越道を経由して枝折峠へと向かいます。

高速道路を移動する間は、ルーチンの祈りの時間です。魂を揺り起こすようなシーンを大切な人たちに届けることができるよう、ひたすら見えない世界に助力をお願いしながら車を走らせます。

関越道を小出インターで降り、国道352号線の狭い山道を30分ほど登って、午前4時30分に、目的地の「枝折峠」に到着しました。

撮影スポットにはすでに先客が数人いて、カメラの放列ができていましたが、何とか撮影ポジションを確保することができました。

カメラをセッティングしてASA感度を上げてゆくと、 暗い谷を流れ落ちる滝雲が、モニターに鮮明に浮き上がってきました。35ミリフルサイズの画像センサーの明るさ恐るべしです。

夢中で映像を収録しているうちに「音」が全くNGで、使えないことに気がつきました。周囲のシャッター音だけなら後処理で消すことができるのですが、この日は、近くで撮影する人たちのカメラ談義が延々と続いていて、その会話がしっかり録音されてしまったのです。

「音」は諦めて、人のいないところで別撮りすることにしました。日の出は午前5時41分、太陽が登ってしばらくすると滝雲が上昇し、視界がホワイトアウトして、撮影はひとまず終了です。

奥只見湖の方に向かって峠を下りながら「音」が録れるところを探していると、突然視界が開けて、荒沢岳をバックに、朝日に照らされた滝雲が目の前に流れ落ちてくる光景に遭遇しました。

後から来てこの風景に出会った人が、「地元に住んでいて何度も通っているけれど、こんな風景は初めてです」と言って、その感動を私に伝えてくれました。

思いもよらないところで神秘的な光景に出会える、これがNATURE収録の醍醐味なのです。見えない世界のナビゲーションにひたすら感謝!です。

滝雲の名残りを眺めながら、来る途中にコンビニで調達したおにぎりとお茶で朝食を摂り一休み。カメラとモニターのバッテリーの充電を開始してから、来た道を引き返し、魚沼市の北にあるコスモス畑に向かいます。

午前8時30分、広い高原一面にコスモスが咲き乱れる「上原コスモス園」に到着。天気は快晴で、秋を感じさせる爽やかな風景が広がっていました。

この風景を普通に撮影すると全部にピントが合ったリアルなコスモス畑になってしまいます。これを「心の旅に出るためのNATUREの風景」にするためには、レンズを使って「余白」を創り出さねばなりません。

ゆらゆらと風に揺れるコスモスの動きを強調するために、手前に大きく花びらを配置し、コスモス畑の広がりを感じさせながらその背景を「ぼかす」画づくりをすることにしました。

まず、最近入手したばかりの最短焦点距離30cmの望遠ズームレンズで、できるだけ花びらに近づいて、背景が広く入るような構図をつくります。

背景をぼかすためには、絞りを開けて被写界深度を浅くしなければなりません。NDフィルターで光量を落としASA感度をギリギリまで低くして、晴天の明るさでも絞りが開けられるようにします。

新しいレンズのテストをしながら、撮影ポジションを探して、広い敷地を歩き回ること3時間、何とか納得できるシーンが撮れました。

欲を言えば、もう少し風が欲しかったのですが、花畑を飛び交う蝶やミツバチが、それに代わる生命のリズムをつくりだしてくれました。

風が止んだので、撮影は終了。少し眠くなってきたので、駐車場でしばし仮眠して、以前に冬の撮影で訪れたことのある日本海の撮影ポイントに向かいます。

午後15時、柏崎と上越の中間にある柿崎海水浴場に到着。海岸には何と重機が入り、護岸工事の真っ最中でした。もう一つ誤算だったのは、太陽が思ったより西に沈み、陸地にかかりそうなのです。

もっと北へ行って、海に沈む夕日が綺麗に撮影できるスポットを探すことにしました。日の入りマップとGoogle マップで候補地を探ると、柏崎から新潟の間にある海岸まで行く必要がありそうです。

Google マップで海岸のピンをタップすると、その海岸の写真を見ることができます。写真を見ると新潟の海岸はほとんど切れ間なく消波ブロックで覆われています。

その隙間を縫って太陽が沈むシーンが撮れるところを探すしかありません。可能性のある海岸をピックアップし、北上しながら候補地をひとつひとつロケハンしましたが、なかなか撮影できるような海岸がありません。

夕日が沈む時間は17時4分、時間が刻々と迫ってきます。16時20分、祈るような気持ちで出雲崎の石地海水浴場に足を踏み入れました。

何とこの海岸には、夕日が沈む正面方向に消波ブロックがありませんでした。まるで奇跡のようです。思わず心の中で歓声を上げました。

目の前に拡がっているのは、冬の荒れた日本海からはとても想像できない、驚くほど穏やかな渚でした。砂浜には、打ち上げられたゴミを一人で黙々と片付けている女性の姿がありました。

「お疲れ様です」と声をかけると「今日は綺麗な夕日が撮れそうですね」という答えが返ってきました。聞けば、すぐ近くで旅館をやっていらっしゃるそうです。

この女性の姿と渚に打ち寄せる優しい波の響きが、夕陽を撮ろうとして焦っていた私の心を、自然のリズムに戻してくれました。

波が静かなので、波打ち際ギリギリまでカメラを近づけてフレームを決め、ズームマイクとカメラマイクの両方で、録音する波の音をチェックします。

美しい黄昏でした。私の魂が求めていた「日本海に沈む秋の夕日」は、このように穏やかな優しい風景だったのかもしれません。日が沈んだ後もしばらくの間、余韻に浸っていました。

こうしてあっという間に、NATURE収録の「長い一日」が終わりました。これから3時間半、東京までの帰路が待っていますが、自然から「感動」というエネルギーをチャージしてもらったので、あまり疲れはありません。

長々と書かせていただきましたが、これが今回のNATUREのロケの全容です。

決してお誘いできるようなロケではありませんが、それでも同行したいという方がいらっしゃれば、ご連絡ください。

出会いは人にはつくれません。ゲストとの出会いに合わせて、臨機応変にスケジュールを変えることによって、新しいNATURE作品が生まれることを祈っています。

 

レポートした今回のロケの風景はこちらから

NATURE通信 October 2023 「遅れてきた秋」
https://nature-japan.com/cat_nature/oct2023/

2023/10/23

Tags:制作ノート

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