愚老庵ノートSo Ishikawa
動画と写真の違い
40年前、最初に自然の動画を撮り始めた頃は、風景写真家の作品を手本にして画づくりをしていました。
しかしいくら頑張っても、自然が造り出す精妙な色や形を、写真のようには表現できないのです。
当時、愛用していたビデオカメラは放送規格のハイエンドENGカメラでしたが、解像力は 35㎜フイルムの6分の1 、ダイナミックレンジの幅は、8分の1 しかありませんでした。
解像度もさることながら、明るさの階調が粗くて繊細なグラデーションが出せないので、どうしても写真と同じ土俵に上がることができません。
悩んだ末に、そもそも「ビデオで写真を撮ろうとするのが間違っている」と気づきました。そして、画質では劣るかもしれないが、ビデオにしかできない表現を追求しようと決心しました。
写真にはなくて動画にあるもの、それは「時間軸」です。写真は時間を止めて「瞬間」を切り取りますが、動画は時の流れから「変化とリズム」を切り取ります。
時間軸を持つという観点から見ると、動画は音楽に近いのかもしれません。
NATURE JAPANのミッションは、自然が造り出す「神秘的な変化」を切り出し「生命のリズム」を伝えること。このスタイルをしっかりと確立できたのは、最初の挫折があったおかげだと思っています。
時代は変わり、今では写真のカメラで高画質な動画が撮れるようになりました。
画質と操作の敷居が低くなり、境界が見えにくくなってきましたが、同じ映像であっても、写真と動画では伝える情報と果たす役割が違います。
何のために、誰に対して、何を伝えようとしているのか? それは動画のする仕事なのか、写真のする仕事なのか?
「心の旅をするための動画」づくりにチャレンジする時には、まずそのことを確かめてから始めていただければと思います。
2021/4/13
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