愚老庵ノートSo Ishikawa
復刻版「山紫水明」公開します
最近あまり使われないようですが、「山紫水明」は、美しく清らかな自然風景を表す言葉です。
NATUREの収録で、山肌が美しい紫色に染まってゆく景色や、澄んだ水を限りなく美しいと感じる景色と出会った時、私はよくこの言葉を思い浮かべます。
唐突ですが、日本の森林面積が国土全体に占める割合をご存知ですか?
日本の森林面積は国土の66%、何と日本の 3分の2 が、森林に覆われた「山」なのです。この森林面積には過去50年間、増減がありません。
高い山々が連なる日本の山脈は、これまでずっと、日本の近代化やインフラ開発を阻んできたと言われます。しかし、今となってみれば、そのおかげで、森が造り出す豊かな生態系が、かろうじて守られてきたのかもしれません。
森林は、光合成によってCO2を吸収し、酸素を放出します。そして、その地下では、樹木の根が網の目のように拡がり、土壌の崩壊を防いでいます。
森林は雨水を保水し濾過します。山から湧き出した清水は、渓流となって谷を下ります。急峻な渓谷が多い日本では、速い流れが水質を浄化し、澄んだ水を下流へと運ぶのです。
深山幽谷から溢れ出すこの清冽な「水」の美しさが、日本人の生き方や文化に与えた影響は測り知れないものがあると、私は思っています。
弛みなく流れる清らかな水の流れは、ただ見ているだけで、心の穢れを洗い流し、執われやわだかまりを解きほぐしてくれます。
過ぎ去ったことを咎めずに帳消しにする「水に流す」という、おおらかな生き方は、日本独特の「文化」だそうです。
古来、日本人は、汚れたものを川で洗い、お盆の供えものを川に流し、精霊流しや灯籠流しによって先祖の霊を浄土へと送ってきました。
水が美しいのは、山が美しいからです。山が美しいのは、目に見えない「生命の循環」が、変わることのない「調和」を造り出しているからです。
先人達は、山紫水明と謳われた、美しく清らかな自然風景の向こうに、物質の次元を超えた「もうひとつの世界」を見ていました。
今回お届けする復刻版の「山紫水明」は、魂の故郷を感じられるような日本の原風景を集めた作品です。
30年以上前に収録されたどこか懐かしい自然風景を旅して、失われつつある「日本人の心のルーツ」を再発見していただければ幸いです。
復元版「山紫水明」公開します
https://nature-japan.com/sanshisuimei/
Restored Version " Scenic Beauty "
https://nature-japan.com/en/scenic-beauty/
2023/8/10
Comment
「山紫水明」そのものの蒜山高原より帰京して
━「水と山の力」に想う
岡山県の大山の近くに、蒜山国立公園(真庭市)がある。100万年前に、火山活動で誕生した蒜山三山。35万年前に大山が噴火し、川の流れが山陰から山陽へ変わり、蒜山のふもとに高原が広がる。「山紫水明」の名に相応しい地に、多様性を受け容れた独特の文化が栄えた。
悠久の時をかけて育まれた、真庭の清らかな水は、流れとともに美しい景観と文化を生み出していった。その水で、人々は瑞々しい野菜を作り、果物を育み、酒をこしらえた。そのひとつひとつの味覚すべてに、神秘的ともいえる「100万年の深み」が息づいている。(真庭観光局「たった100万年のおくりもの」より)
よい水は、よい植物、動物、人間、そして文化を育む。ジャージー牛乳、ソフトクリーム、コーヒー、パン…すべて、格別の味であった。すでに「持続可能社会」の実現に取り組み、結果を出してきた真庭の挑戦━。建築家・隈研吾設計のミュージアム、モニュメント、貸しオフィス等が完備され、ペットボトルから繊維を取り出し、靴や服などに再生利用された日用品が並ぶ。時代の最先端を行っている、と言っても過言ではない。
「西の軽井沢」とも呼ばれるが、大自然の瑞々しい水と空気、古代からの豊かな文化と歴史は独特の魅力だ。蒜山が「高天原」であるとの説もあり、それを物語る古い地名や遺跡が幾つもある。さらに昔から蒜山には、「スイトン」と呼ばれる妖怪がいるのだ。悪いことを考えている人に、スィーとよってきて、トンととまり、悪者を食べる怪物である。それゆえ蒜山には、悪人がいないという。私も食べられてしかるべき人間だが、なんとか生きて帰って来ることができたのは、汚れた心を洗ってくれた水と山のお蔭であると感謝している。
Akira
コメント投稿には会員登録が必要です。