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愚老庵ノートSo Ishikawa

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「日本の心」が未来を変える

「日本の心」が未来を変える

今年の七月、アメリカの病院でトレーニング用の大型の鎖を首に着けていた男性が、MRI装置に吸引されて死亡しました。

MRIは強力な磁石と電磁波を使って体の中を映し出す画像診断装置で、吸引や火傷などの危険が伴うため、検査には安全に対する特別な配慮が求められます。

十数年前、医療機器メーカーの依頼で「医療施設のための安全講習DVD」を制作したのがきっかけで、私はそれまで縁もゆかりもなかった「MRI検査の世界」へ足を踏み入れることになりました。

検査中の事故は、患者さんを傷つけるだけでなく、装置メーカーにも医療施設にも大きなダメージを与えます。「何とかして事故を無くしたい」メーカーの人たちも検査を担当する放射線技師の人たちも、想いは同じでした。

その「熱い想い」に動かされて、一緒に「安全なMRI検査を考える会」を立ち上げる手伝いをするだけでなく、まさか自分がそこで活動をすることになろうとは夢にも思いませんでした。

MRI安全WebというWebサイトを開設し、MRI検査に携わる人たちへの情報発信と啓発を続けて10年、事故は一時減少したように見えましたが、残念ながら最近また増加傾向にあるようです。

MRIの専門技術者を認定する認定機構が主体となって、放射線技師を主な対象として、事故防止のための啓発ポスターを作成することになったのですが、そこで「事件」が起こりました。

このポスターを企画したのは、MRI検査の世界をリードし事故防止にひとかたならぬ想いを持つベテランの放射線技師の面々でした。

MRI検査を行う操作室という特殊な環境に貼られるポスターで、何を優先して危険を訴求すべきなのか、どんなキャッチコピーやビジュアルが現場で働く人たちの心に刺さるのか、議論が重ねられました。

今の時代、学会発表などでデザインツールを使い慣れているメンバーにとって、デザイン案を試作することは、さほど難しいことではありません。今流行りの生成AIを駆使して、自分たちの手で納得がいくまで、ポスターデザインの試作が行われました。

出来上がった最終案を、私も見せてもらいましたが、MRIの検査環境とそこで働く人たちの実態を熟知していなければこのポスターは創れない、そう思わせるような配慮と強いインパクトがこのデザインにはありました。

これをそのまま印刷会社に持ち込んで印刷用のデータに直してもらえればよかったのですが、発注者が知り合いのデザイナーに依頼してしまったところから「事件」が発生しました。

依頼を受けたデザイナーは、なぜこのようなデザインになったのかという背景を一切知ろうとすることなく、自分が良しとしている「美的センス」で、デザインを全く別のものに作り替えてしまったのです。

文字の大きさや色使いだけでなく、キービジュアルやキャッチコピーまでありふれた小綺麗なものに変えられているのを見て、ポスターを試作してきたメンバーは唖然とし、リーダーは激怒しました。

何故こんなことが起こってしまったのでしょう。それはデザイナーが、依頼主の想いを知ろうとせず、現場で働く人たちの役に立とうと思っていなかったからなのではないか、私は勝手にそう推測しています。

生成AIに仕事を奪われるのではないかという不安の中で、デザイナーは、自分の存在価値を認めてもらいたくて、一生懸命得意技を繰り出したのかもしれません。

しかし、自分の美意識で見栄え良く体裁を整えるというデザインの手法は、不特定多数を対象とした「曖昧なイメージの世界」では通用しても、特定の検査空間で使用される実用のためのポスターでは、何の役にも立ちません。

新しいテクノロジーによって社会環境が激変しようとしている時代、MRI検査の舞台裏で起きた小さなこの事件は、私たちに何かを問いかけているように思えてなりません。

 

現代の物質文明は、工業化による大量生産によって「物質的な豊かさと便利で快適な生活」を私たちにもたらしてくれました。しかしその代償として、私たちは大切なものを見失ってしまったのではないでしょうか。

今、大量生産され大量消費される「ものづくり」や「サービス」の世界では、つくり手と受け手の距離があまりにも遠く離れすぎてしまったように感じます。

相手の顔が見えない世界で、つくり手は「相手に喜んでもらう気持ち」や「責任感」を見失い、受け手は「感謝する気持ち」や「ものを大切にする想い」を見失ってしまいます。

顔の見えない不特定多数の人たちに、大量の商品やサービスを購入してもらうために、最近では、メディアやSNSを使ったマインドコントロールが日常的に行われるようになりました。

製品やサービスを知ってもらうための「情報の世界」でも、あの手この手のイメージ操作やステルスマーケティングが横行し、私たちは、まず相手を疑ってかからなければならなくなってしまいました。

企業が株主の利益を最優先にし、生き残りをかけて統合化を進め巨大化してゆく時代、企業に対する親近感は失われ、顧客との「心の距離」は、どんどん離れてゆきます。

店舗を大規模に展開する外食チェーンやサービス業では、顧客満足度を高めるために、マニュアルによる従業員教育に力が注がれています。

マニュアルは、多民族国家であるアメリカで発達した研修教育ツールで、多様な文化的背景を持つ人々が「均一で良質なサービス」の提供を可能にするためのシステムとして大きな成果を上げてきました。

しかし、定められたルールや手順を厳格に守ることで提供できるサービスには、自ずから限界があります。

義務感でつくられた笑顔には温かさがありません。均質なサービスからは、臨機応変な神対応が生まれることはありません。

それは、AIとロボットで置き換えられるサービスには、「相手を思いやる心」が欠落しているからなのではないでしょうか。

「自分さえ良ければ」という想いが世界中を覆うこの時代に、「相手の立場に立って相手を思いやることができる」という日本人の能力が、世界中から注目されています。

レヴィ・ストロースが縄文時代の日本人の中に見出したこの類い稀なる能力が、いまだ失われずに私たちに受け継がれているとすれば、それは奇跡に近いことだと思います。

「人を思いやる心」「人の役に立とうとする想い」から出た言葉や行いが、人の心を温かくするのは世界共通です。

日本に惹かれるインバウンドが激増しているのは、海外の人たちが日本の食やサービスに、相手を思いやる「日本の心」を感じとっているからではないでしょうか。

私たちに与えられたこの類い稀なる「心の力」を使って、冷え切ってしまった世界中の同胞の心を温めること、それがこの時代に日本に生まれてきた私たちのミッションなのではないか、近頃そんな想いが強くなっています。

しかし、肉体に囚われた哀しさで、相手のことを思いやろうとしても、自分さえ良ければという「自我」がすぐに頭をもたげます。

「今、何のためにこれをやろうとしているのか」自分にその動機を問うところから、私はこのミッションを始めることにしました。

私たちは、日々出会う相手と「想念のエネルギー」を交換しています。そのエネルギーが、私たちの心のどこから出たものかによって、その場で何が起こるか、事態の展開は変わります。

「自分の欲望ため、自我を守るため」なのか、「相手を思いやり、相手の役に立つため」なのか、そのどちらを選択するかによって私たちの未来は変わり、相手の未来も変わるのです。

天変地異や最先端テクノロジーによって地球環境や社会システムが激変してゆく時代、この選択は、私たちの運命だけでなく地球と人類の運命も大きく左右するのではないでしょうか。

私たちが「相手を思いやり、相手の役に立つ」という選択をした時、そのエネルギーは失われてしまった「人と人との温かい絆」を甦らせ、そこに「感謝の循環」を生み出します。

安全なMRI検査のポスターを作り替えてしまったデザイナーがこの選択をしていたら、事態はどうなっていたでしょう。ふとそんなことを考えてしまいました。

相手を思いやる小さな温かい絆が、ひとつまたひとつと繋がってゆく時、そこには、お互いが助け合う縄文時代のような争いのない穏やかな世界が拡がってゆくのではないでしょうか。

しかし、いざ人の役に立とうと思っても、煩悩が渦巻くこの世を前にして、現役を退いた老人はあまりにも無力です。

私にできること、それは日々出会う人たちや、心の中に生きている人たちを思いやること、そして、ひたすら祈ることだけかもしれません。

それでもありがたいことに、私には「NATURE JAPAN」と「愚老庵」という場が与えられています。

同じ志を抱く「縁生の友」と一緒に、先人たちから託された「日本の心」を伝えてゆくこと、そこから私にできるミッションを始めてゆきたいと思います。

 

LINKS

今月のNATURE通信は、日の出から日没まで九月の海が見せる表情の変化をお届けします

NATURE通信 September 2025 「九月の海」
https://nature-japan.com/nature-tsushin/

 

「縁友往来」に新しい投稿があります。

 Goddess in Dream ━Harmony of Japan and Nature  
「夢の女神━和の日本と自然」 
By Akira
https://grow-an.com/mate/mate-038/

「失われた35年間」 By 流水
https://grow-an.com/mate/mate-039/

 

参照

医療従事者を対象にした安全なMRI検査のための啓発サイトです。
普段目にすることはまずないと思いますが、興味があれば覗いてみてください。
 
 
 

2025/9/25

Tags:内宇宙の旅

Comment

  • 石部 顯:
    2025年10月1日

    ある社会学者の調査で、世界の人々が、日本人の特性として、高く評価している点が、以下の三点であることが分かりました。

    1,他人に迷惑をかけないように配慮し振る舞う
    2,人を思いやり、理解し、共感する力
    3,自分を前面に出して誇らない謙虚さ、でした。

    日本人なら、当たり前すぎて、意識化すらしていないことが、世界の人々からしてみれば、素晴らしい特性として、高く評価されたのです。

    戦後、欧米の価値観、志向、発想にのまれ、歴史の偏向だけでなく、神仏・信仰といった日本人の意識の核を形成してきた精神や文化を、戦略的に破壊する「洗脳」プロパガンダが行われ、「人を思いやる心」が失われてきたとはいえ、庶民レベルでは、今なお、息づいている事実、━日本人の潜在能力は、決して消えてなくなってはいないのが、真相です。

    社会科学的に、愚老庵さんの指摘される、人を思いやり、人のために行動する、日本人の特性、日本文化を支える精神的支柱は、未だ倒れず、復活の時を待っているのだと思います。「NATURE JAPAN」は、その覚醒の一石を投じるものだと思います。

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