愚老庵ノートSo Ishikawa
Baronが教えてくれたこと

今年もBaronの命日が巡ってきました。Baronがあの世へと旅立ってから、はや8年の月日が流れました。犬の命日?と言われそうですが、親の命日は忘れてもBaronの命日は忘れません。
我が家にやんちゃなチョコラブのパピーがやって来たのは2002年の春、その天真爛漫な可愛さにメロメロになりながら、「子育て」の経験がない私たち夫婦は、Baronをどうやって育てればいいのか、途方に暮れていました。
そんな時、犬の鳴き声を人間の言葉に変換する「バウリンガル」という通訳機が発売されたのです。犬の鳴き声を声紋分析して6種類の感情を判定し、200種類の人間の言葉に変換するというユニークな発想と技術が評価され、バウリンガルは、米タイム誌の年間最高発明品に選ばれました。
速攻でこのバウリンガルを買い求め、最初は面白がっていろいろと試していたのですが、すぐに使わなくなってしまいました。
その理由は、「嬉しい」「寂しい」「ご飯ちょうだい」「遊んで」「あっちへ行け」などの感情表現は、鳴き声をわざわざ人間の言葉に翻訳しなくても、犬の様子をよくみていれば、十分伝わってくるからです。
私たちは、人とコミニュケーションを図ろうとする時、言葉による「知の回路」に頼ろうとします。犬の鳴き声を人間の言葉に変換しようという発想は、まさにその延長線上にあるのではないでしょうか。
犬たちは鳴き声だけではなく、全身を使ったボディランゲージで、喜怒哀楽や欲求を私たちに伝えています。ひとつひとつの表情やしぐさが「犬の言葉」であり、その言葉をダイレクトにキャッチすることが、犬とのコミニュケーションの秘訣であることを、Baronは教えてくれました。

私たち現代人は外界を認識する時に、80%を視覚に頼り、言葉を中心に構築された「知の世界」で生きていると言われています。
犬たちの嗅覚は人間の数千倍、聴覚は数倍と言われています。犬たちは、この嗅覚と聴覚をフルに使って世界を認識し、匂いと音を中心に構築された「波動の世界」を生きているのです。
こちらの意図を犬に伝えようとする時、人間の言葉は何の役にも立ちません。犬が覚えられる固有名詞や単語は、100から200語と言われています。犬の訓練が、短いコマンドと合図によって行われているのは周知の事実です。
犬は人間の言葉が理解できませんから、人間が発している感情や想念エネルギーの波動を匂いで嗅ぎ分けるとも言われています。
人間の世界では、言葉を巧みに使って本心を隠すことができますが、犬にはそれが通用しないのです。
死後、私たちが肉体を失うと魂の波動(本性)が、それに相応しい霊の姿として顕れてくると、魂の覚者たちは言いますが、犬たちはその姿を嗅ぎ分けているのかもしれません。
Baronは時々、何もない空間をじっと見つめていることがありました。そんな時私は、自分には見えない世界がBaronには見えている、そう感じていました。
私たちは、肉体の五感で認識できる範囲を超えた世界が自分の周囲に存在していても、何ひとつ認識することができません。それなのに自分が認識している世界がすべてだと思い込んでいます。
同じ時空間にいても、犬と人間では認識している世界が異なるのです。それに気づかず、自分の尺度で犬を思うがままに支配しようとするのは、いかに愚かで傲慢なことなのか、Baronは教えてくれました。
もうひとつ、Baronが教えてくれたことがあります。それは「愛することによって、知では見えない世界が見えてくる」ということでした。
この数百年の間、私たちは、対象を自分と切り離して客観的に分析する科学的な思考によって、次々と新しい世界を切り開き、その恩恵を享受して来ました。
しかし、その代償として私たちは、自己と他者という区別をつくり出し、自分とは切り離せない存在として他者を認識する力を失ってしまったのではないでしょうか。
Baronを育てるために、私は犬について書かれた本を片っ端から読破して、犬に関する知識を学びました。それは、私がBaronを客観的に分析しようとしたからではなく、ただ愛していたからだと思います。
愛の対極にあるのは憎しみではなく「無関心」だと言われますが、愛することによって関心を向け続けなければ、私たちは「知識」の背後に存在する「波動の世界」を認識することができないのではないでしょうか。
大型犬を飼うのは、想像していたよりもずっと手がかかりました。一日二回ご飯を用意し、朝夕の散歩で排泄をさせる、そしてストレスが溜まらないように運動させ一緒に遊ぶ、全身をブラッシングしながらケガや体の異変をチェックする、この毎日のルーチンをきちんと続けるのは、私にとって仕事をするより大変でした。
しかし不思議なことに、このルーチンには義務感という苦痛がなく、毎日が楽しくて仕方がありませんでした。それは、私が閉ざしていた「愛する力」を、Baronが引き出してくれたからだと思います。
飼い主を信頼できるリーダーとして認めた時、犬は純粋で真っ直ぐな愛を飼い主に返してくれます。そして、その信頼関係が深まってゆくと、言葉を交わさなくとも、相手の感じていることを「波動」でキャッチできるようになります。
愛犬と一心同体になったかのようなこの世界は、客観的な「知の世界」をいくら追求しても得られるものではありません。愛することによって、自他の境が消えて、自分の認識している世界が大きく変容してゆくことを、Baronは教えてくれました。
犬は私たちを映す鏡になって、私たちには見えていない自分の「本当の姿」を見せてくれます。
自分の心の空洞を埋めるために犬を溺愛したり、自分の思い通りに支配しようとすることなく、犬を「神さまの贈り物」として愛した時、犬は「本当の自分を探す旅」のかけがえのない同伴者になってくれる、私はそう信じています。
魂の探求者たちは「献身的な愛のエネルギー」が、物質の次元を超えた高次元の世界への扉を開いてくれると言います。Baronによって引き出された無償の愛は、目に見えない「魂の次元」が存在することを、私に確信させてくれました。

今この世では、加速度的に進化する最先端テクノロジーによって構築された巨大な社会システムが、地球生命体の自浄作用によって破綻し始めています。
己の物質的な欲望を満たすために地球の資源とエネルギーを乱獲し続けた結果、環境破壊や地殻変動が進行し、異常気象や天変地異が私たちの日常を脅かし始めたのです。
あらゆる生命がひとつに繋がった「地球生命体」からの様々な警告にもかかわらず、私たちはなかなかこれまでの生き方を変えようとしません。
それどころか私たちは、自分を守るために他者との間により強固で高い壁を築かなければならなくなってしまいました。
周囲への愛や思いやりが失われ、自我が剥き出しになった世界では今、争いが頻発し、強者が力で弱者を支配しようとする目を覆いたくなるような惨状が広がっています。
その根底にあるのは、自分と他者を区別し、物質の世界がすべてで、死んでしまえばすべてが消滅する、頑なにそう信じ込んでいる私たちの「想念」なのではないでしょうか。
「Mind is the builder」私たちの想念が現実をつくり出すと、エドガーケイシーは言いました。
物質の世界に様々な現実をつくり出している私たちの「想念」が変わらない限り、この世を覆う混乱が収まることはないでしょう。
目に見えない私たちの「想念エネルギー」がいかに大きな影響力を持っているか、その存在に目覚めることを、私たちは今、時代から呼びかけられているような気がしてなりません。
「自分は何のために生きているのか」「どのような想念が自分を動かしているのか」AIに、その答えを出すができるでしょうか。
想念エネルギーの根源を自らに問わねばならない人類の「新しいステージ」がこれから、始まろうとしています。
私利私欲を離れた「愛」という想念エネルギーの波動が、永遠の生命を生きる魂の世界の扉を開いてくれることを、あの世のBaronと共に祈っています。
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