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「曼珠沙華の風景」

「曼珠沙華の風景」

「曼珠沙華を撮りたい」 今月のNATURE通信で何を届けようかと思案している時、唐突にそんな想いが湧いてきました。

曼珠沙華は「彼岸花」とも呼ばれています。秋のお彼岸の時期、この世とあの世を繋ぐかのように咲き誇る真紅の曼珠沙華は、サンスクリット語で「天界に咲く花」を意味しているそうです。

曼珠沙華の花言葉には、亡くなった人を偲び「また会う日を楽しみに」という意味もあるそうです。

この花をNATUREでどう撮るか、これは私にとって新しいチャレンジでした。実は私はこれまで50年間の動画人生で、一度も曼珠沙華を撮ったことが無いのです。

花を美しく撮るために、スタジオではよく霧吹きで花に水滴を吹きかけます。自然の大地に咲くみずみずしい曼珠沙華の姿を撮るには、雨上がりを狙わなければと思いました。

みずみずしい曼珠沙華に巡り会えたとしても、そこに「動き」がなければ、それは写真になってしまいます。「生命のリズム」を造り出す風や日差しの変化が、NATUREの画づくりには必要不可欠です。

まず、天気予報で「雨のち晴れで、強めの風が吹く」という地域と時間帯を探すことにしました。この条件をクリアしたのは、10月2日、茨城県周辺でした。

次にGoogleマップで、茨城県周辺の曼珠沙華の群生地をリサーチしました。候補地のアイコンを押すと、開いたページにはその場所を写した投稿写真のコーナーがあります。

投稿された写真を見れば、そこでどんな映像が撮れるのか、およその見当をつけることができます。最新の開花状況を確認して、撮影できそうな候補地を数ヵ所リストアップし、そこを回ることにしました。

満開の曼珠沙華には葉がありません。まっすぐに伸びた緑色の茎の上に真っ赤な花びらがあり、その花びらを包み込むように針金のようなおしべが、空に向かって放射状に美しい曲線を描いています。

確かにその姿は唯一無二で、そのまま撮っても「天界に咲く花」という鮮烈なイメージが伝えられるのではないかと思いました。しかし、亡くなった人を偲ぶ「心の旅」へと見る人を誘うには、何かが足りないのです。

何が足りないのか、候補地を回って試行錯誤を繰り返しているうちに、ついにその答えになるような「曼珠沙華の風景」と巡り会うことができました。

なだらかな丘に立つ大樹とその下に咲く曼珠沙華の群落の前まで来た時のことでした。強い風に吹かれて木の枝が大きく揺れ動き、その影によって樹下の曼珠沙華の群落に「光と影のドラマ」が生まれたのです。

揺れ動く木洩れ日によって「曼珠沙華の風景」は一瞬にして、陰翳に彩られた幽玄な世界へと変容しました。

谷崎潤一郎は「陰翳礼讃」という著書で、日本古来の深い美意識は、陰翳の中から生まれたと述べています。「揺れる陰翳」は、NATUREの画面にも、内宇宙への入り口をつくり出してくれました。

明るい晴天の下で普通に曼珠沙華の風景を撮ると、近くから遠くまで風景のすべてにピントが合ってしまいます。このリアルな画面の中には、想像力やファンタジーが入り込む余地がありません。

望遠レンズを使って、風景に「余白」をつくり出すことにしました。群生する曼珠沙華をクローズアップし、そのうちの一輪にピントを合わせると、前後の画像がボケて、そこに「奥行の余白」が生まれます。NATUREの心の旅では、この「余白」が、心を映すスクリーンになるのです。

ピントの合う範囲を狭くしてボケ足を大きくするには、レンズの絞りを開けなければなりません。しかし、明るい晴天下では、絞りを開けると、画像センサーのISO感度を目一杯下げても、露出オーバーになってしまいます。

こんな時には、レンズにNDフィルターを装着してカメラに入る光量を落とします。モニターを見ながらNDフィルターの濃さとカメラの絞りを調節し、最適なぼかし具合を探ってゆきます。

I-phoneが進化して画をぼかすことができるようになったとはいえ、スマホのカメラではとてもこんな繊細な芸当は出来ません。

NATUREの収録で納得できる画づくりをするために、私は大型のイメージセンサーを搭載したカメラと4種類の交換レンズを持ち歩いています。

レンズの重量だけでもおよそ4kg、テレビカメラを使っていた時代に比べると随分軽くなりましたが、それでもこの重荷を背負っての行脚はまだまだ続きそうです。

カメラのセッティングを済ませたら「いい風」が吹いてくるのを待ちます。神秘的な風景が生まれる自然条件を、自分の力でつくり出すことはできません。風を待つ間にできること、それはひたすら「祈る」ことです。

「どうか、いい風を吹かせてください」画づくりに集中していると、ついそう祈ってしまいますが、自分の都合しか考えていない「祈り」は、森羅万象がひとつに繋がって調和を作り出している世界にはなかなか届きません。

そんな時は、「魂の故郷」を思い出すことにしています。目を閉じて自然のリズムに呼吸を合わせていると、自分が自然の一部であり、自然に生かされているという感覚が蘇ってきます。

NATUREの真髄は、物質の次元を超えた「見えない世界」との協働によって、自分の力では到底つくり出すことができない「神秘的な世界」と巡り会うことです。

NATUREの動画づくりで求められる祈り、それは、神秘的な自然風景をつくり出す「造化の源」に己の心の波長を合わせ、神仏の世界に「託身」するための祈りなのではないか、私はそう考えています。

「どうかこの風景が、魂の故郷へと向かう道を造り出してくれますように」見えない世界に向かってそう祈っているうちに、風が吹き始めました。

画面の中に、人間にはつくり出せない幽玄な生命のリズムが生まれ、「曼珠沙華の風景」の向こうに「天界」が垣間見えたように感じました。

この「曼珠沙華の風景」が、あの世に旅立った人たちを偲ぶ「心の旅」の起点となってくれることを心から祈っています。

曼珠沙華と木洩れ日
https://nature-japan.com/post_nature/tsushin-oct2024-3/

 

今月のNATURE通信は、秋の風が奏でる「生命のリズム」をお届けします。
NATURE通信 August 2024 「秋の風」
https://nature-japan.com/nature-tsushin/


「縁友往来」に新しい投稿があります。
人間の創造は、AIを超える━創造の心理学・脳科学の答え
https://grow-an.com/mate/mate-013/

【書評】竹村牧男著『良寛―その仏道―』
https://grow-an.com/mate/mate-014/


「縁友往来」に寄稿される方は、「お問い合わせ」から庵主にご連絡ください。皆様のご参加をお待ちしております。

 

2024/10/25

Tags:制作ノート

Comment

  • 石部 顯:
    2024年11月1日

    ━NATUREの動画づくりで求められる祈り、それは、神秘的な自然風景をつくり出す「造化の源」に己の心の波長を合わせ、神仏の世界に「託身」するための祈りなのではないか、私はそう考えています。

    空即是色ですね。「今ここ」の自然の波動に、己の心身を和する。「今」しかない。過去も未来も想念の中にある。今ここに、全集中して生きたいものです。

    太陽の ただ中に観ゆ 光る愛

    曼殊沙華 大地の力 いのち燃ゆ

    秋桜の揺れ 優しくて 風を観る

    落葉の 宇宙で一つ 落ちる場所

    また昇る 沈みし太陽 明日の朝

    Akira

  • 石部 顯:
    2024年11月3日

    追伸

    ・NATURE JAPAN は、「祈り」の映像作品である。ゆえに、
    ・神韻(しんいん)、神の響きを湛え、漂わせている。
    ・観る者に、癒し、救い、至福をもたらす。
    ・「和の心」を、ダイレクトに感じさせてくれる。

    「日本人、日本文化のエッセンスは、何ですか?」と問われれば、
    「NATURE JAPAN」の四季の自然を、見せて差し上げることが、
    一番伝わるかもしれませんね。それと、日本人の真情に触れて
    いただくことでしょうか。

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