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「動画の桜」を撮る

「動画の桜」を撮る

ここ数年、ライフワークの NATURE の撮影で、ずっと桜を追いかけています。桜の開花を告げる桜前線は、南から北へ、低地から高地へと、2ヶ月以上かけて日本列島を移動してゆきます。

早咲きの河津桜から遅咲きの八重桜にいたるまで、桜はその種類によって開花時期が異なります。どのタイミングで撮影に出かけるかは、「どんな桜と出逢いたいのか」によって決まります。

それは、山肌一面に咲き誇る山桜なのか、里に凛と立つ一本桜なのか、土手や街道を彩る桜並木のトンネルなのか。桜の撮影は、まず「出逢いたい桜」を探すところから始まります。

インターネットが普及する以前は、「出逢いたい桜」を探すには、写真集や撮影ガイドブック、テレビのニュースや特集番組といったごく限られた情報源に頼るしかありませんでした。

今、私たちは、WebサイトやSNSを利用して、膨大な数の桜の映像と撮影場所を検索することができます。いつ頃どこに行けばどんな桜と出会うことができるのか、「出逢いたい桜」の選択肢は、一時代前には考えられないほど大きく広がりました。

「出逢いたい桜」が決まったら、その場所の天気予報をピンポイントで追いかけ、桜の開花予測と擦り合わせて、狙ったシーンが撮れそうなタイミングを探ります。

NATUREの「動画の桜」を撮るには、桜の開花予測だけでなく、桜を取り巻く周囲の気象条件にも細心の注意を払わなければなりません。

それは、日差しや風、霞や雨などが、桜の表情の変化を生み出し「ゆらぎ」や「自然のリズム」を造り出すからです。

抜けるような青空と明るい春の日差しは、満開の桜を輝かせます。花散らしの雨は桜に寂しげな風情を添え、花嵐は花びらを舞い上げ、壮麗な桜吹雪をつくり出します。

NATUREでは、桜を美しく撮るだけではなく、桜という被写体を通して自然現象が造り出す「神秘的な変化」と「生命のリズム」を伝えようとしています。

そのために、画面からできる限り人工的な要素を排除しようとしているのですが、こと桜に関してはなかなかそうもいきません。

それは、桜の名所の多くが観光地になってしまっているからです。スマホを手にインスタ映えする桜を撮ろうとする人たちの中で、人の姿や建物などの人工物を避けながら「NATUREの桜」を撮ろうとするのは至難の業です。

そもそも、今咲き誇っている桜そのものが、品種改良されたり植樹されたりしたものであり、人の手が加わっているので、厳密に言えば「自然」とは言えないかもしれないのです。

しかし、たとえそうであったとしてもても、桜は私たちを惹きつけてやまない魅力的な被写体です。それは桜が私たち日本人のDNAや集合無意識に深く根ざした特別な花だからなのかもしれません。

先人達は、散りゆく桜に自分自身の姿を重ね合わせ、美しさの向こう側に「もののあはれ」や「無常」を感じ取っていました。

美しい盛りに見事に散ってゆく桜。その散り際の潔さは「武士道」のシンボルとして、崇拝されてきました。

そして桜は日本の近代化とともに、国の富国強兵政策によって全国津々浦々に植樹され、日本人の暮らしとは切り離せない存在になっていったのです。

この時代に生きる私たちにとって、桜は旅立ちを彩る花でした。希望と不安を胸に新しい世界に向かって歩み出した日々、その傍らには桜があったのではないでしょうか。

NATUREは「心の旅に出るための動画」です。心の旅の起点をつくり出す動画には、懐かしい人たちを想起させる桜のシーンが欠かせません。

「桜の記憶」を辿るタイムトラベル、その途上では、桜に彩られた様々な出会いと別れのシーンが浮上してくるはずです。その時の自分は、今の自分に何を語りかけてくるのでしょうか。

過去の自分と対話してもらえるような桜のシーンを撮りたい、できるなら日本人の魂のルーツを感じてもらえるような幽玄なシーンを撮りたい、そう願いながら私はこれまで桜の撮影を続けてきましたが、なかなか思うようなシーンが撮れません。

人は自分の「境地」以上のものはつくれないと言われます。私は今、大自然の波動に己の波動を合わせ、その呼びかけに応えてゆくことが、これまで以上に求められていることを痛感しています。

先月、流水さんが縁友往来の「桜花考」で、「夜桜の下を歩いていると、桜は怖い木だと感じる」という先輩の言葉を紹介してくれました。

それはどうしてなのだろうと思いを巡らせているうちに、「桜の下には死体が埋まっている」という梶井基次郎の短編小説「桜の樹の下には」の冒頭の一節が浮かんできました。

桜の妖艶な美しさは、土中にある死体を養分として吸っているからであり、生と死、美と醜が表裏一体になっているからこそ桜は美しいのだ、というこの考察には不思議な説得力があります。

今年の花見は、友人たちと青山霊園に行ってきましたが、此処には本当に桜の下に死体が埋まっています。

私は墓地で花見をするのが好きです。それは墓地には酒宴も喧騒もなく純粋に桜を鑑賞できるからなのですが、それだけではありません。墓地に咲く桜は、私の意識を「見えない世界」へと向かわせてくれるのです。

地上に生えている樹木は、それと同じぐらいの大きさの根を地中深くまで伸ばしていると言われますが、花見をする時に土中にある桜の根までイメージする人はあまりいないと思います。

死体を養分にして艶やかに咲く桜の花を想像すると、たしかに「怖さ」を感じますが、土に還ったあらゆるものを養分として開花し、美しい盛りに一斉に散ってゆく桜の「生命の循環」に、私は別の「畏さ」を感じています。

それは、死から生へ、生から死への輪廻をこの地上につくり出す人知を超えた大自然の神秘に対する「畏敬の念」なのかもしれません。

「願わくは 花の下にて春死なん その如月の望月のころ」
墓地で桜を見ている時、こんな和歌が心に浮かんできました。

これは平安末期に生きた西行法師の辞世の歌ですが、私はこれまでずっとこの歌を間違って解釈していました。

満月の頃、満開の桜の下で死にたいというのは、すべてが満たされた絶頂で死にたい、西行がそう願ってこの歌を詠んだのだろうと思っていたのです。

「此の世をば 我が世とぞ思う望月の 欠けたることも無しと思えば」
これは藤原道長が、権力の絶頂で詠んだ歌と言われていますが、どうやら私はこの歌と西行の辞世の歌を混同してしまっていたようです。

北面の武士だった西行は、23歳で妻子を捨てて出家し、生涯を旅と歌に捧げた漂泊の歌人であったと言われています。それなのに何故、藤原道長のような歌を詠むのだろう、そう感じながらも、私はその理由を知ろうとはしませんでした。

ところが何と、如月の望月(満月)は陰暦の2月15日、仏陀が入滅した日だったのです。西行は、仏陀 と同じ日に死にたいと願い、この歌の通りに如月の望月のころ、73歳であの世に旅立ったことを、私は最近になって知りました。

真言密教の聖地である高野山で30年以上修行し、空海を深く敬愛しつつも宗派に縛られることなく自由に生きた西行、その辞世の歌に込められた深い求道の想いを、これまで私は感じ取ることができなかったのです。

あの世に旅立つ前に、西行はどんな想いで、今生で見る最後の桜を眺めていたのでしょう。死を意識した時、この世の景色はより愛おしく輝いて見えると言われます。

西行は、美しくも儚い「この世の命」を愛でながら、生成流転する生命の循環の中に、変わることのない「無常の美」を見ていたのではないでしょうか。

肉体の五感でしか感じられない「この世の美しさ」によって表面意識を魅了しつつも、心の深層で「創造主への畏敬」を感じさせるような「幽玄な桜」が撮れないだろうか、それが今、私の課題になっています。

あと何回桜の季節と出会えるのだろう、そんなことを考える歳になってしまいましたが、有り難いことに、私にはこの難題にチャレンジする環境が与えられています。

私にはまだ、目的地まで自分で車を運転し、撮影機材を担いで歩き回る体力が残されていますし、目まぐるしく変化するIT技術をサポートしてくれるスタッフにも恵まれています。

毎月のNATURE通信を心待ちにしてくださっている縁友たちの存在が、難題に挑み続けるエネルギーを私に与えてくれます。

そして、このミッションを導き、守護してくれている目に見えない世界の存在が、私の中で日増しに大きくなっているのを感じます。

これらすべてに感謝しつつ、大自然の波動に導かれて魂の故郷を目指す私の「NATURE行脚」は、まだまだ続きそうです。

 

LINKS

今月は動画ならではの「桜の生命のリズム」を届けします

◻️NATURE通信 April 2026 「桜の記憶」
https://nature-japan.com/nature-tsushin/

 

◻️愚老庵メールマガジン April 2026
「縁友往来」に新しい投稿があります。

「無縁の大悲」  By 流水
https://grow-an.com/mate/mate-052/

 

 

2026/4/24

Tags:NATUREへの道

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